宇沢弘文「自動車の社会的費用」
企業が自動車を販売したいので、国民に車を売って買わせていくと、道路工事をしたり整地をするためにすでにある物件から家主を追い出したりするため、一人あたり年間700万円の社会的費用損失があると計算したのが宇沢弘文です。
80年代に彼はノーベル賞候補まで行った人ですが、彼の理論よりアメリカでは新古典派経済学という自由主義経済(新自由主義路線)を採ることになり、日本でも00年代頃から追随するようになりました。
非正規雇用は少子化という社会的費用を生んだ
かなり規制緩和がされて、現在では大規模な派遣会社が当時設立されたのは皆さん知っているでしょうが、まさにこれは宇沢の指摘そのものの愚を犯していると言えます。
もちろん、雇用規制緩和すれば、企業は身軽になるので儲かりGDPの数値は上がります。
その証拠に、アベノミクスなどではトリクルダウンと呼ばれ、中小企業に経済効果波及があると言われました。
しかし、この社会的費用(マイナスの経済効果および経済波及効果)は年間一人あたりいくらかを算出した経済学者は誰もいませんでした。
リフレ派は新自由主義において正しいが…
もちろん、この理論自体は正しいです。
新古典派経済学のリフレ派と呼ばれる人たちの理論ですから、その理論においては非常に正しいですし、もしもこの路線を採ると決定して理論通りに振る舞わなければもっと酷いことになっていました。(ただし、リフレ派の金融政策は途中で消費税増税をしてしまい、予想よりはうまく行きませんでした)
その証拠に、経済に無知な民主党政権が経済政策をやったら日本がボロボロになりました。
なので、私が指摘しているのは、そもそもこの新自由主義を採択する以前の話です。
やるべきだったのはプラス及びマイナスの経済波及効果の算出
新自由主義経済を始める以前に、例えば派遣会社・非正規雇用を増やせば、どのくらい当時の企業や正規雇用、被雇用者にダメージがあるのか。
それから、雇用主や経営者が得をしたとしても、そのマイナス分とトータルしてどのくらいのプラス及びマイナスの数値があるのか。
その結果として社会はどのような変容をし、その姿は多くの人々にとって望ましいのか。
国家戦略を策定する以前に、真っ先にこれを算出すべきでしたが、誰もやらなかったわけです。
スクラップアンドビルドで見かけの数値上のGDPは上がるし、株価も上がるでしょうが、それにより犠牲になった経済効果のマイナスはいまもなお続いています。
例えば、氷河期世代から深刻化した非正規雇用をはじめ、少子化の問題、若者の無力感や将来に対する希望を持てない(中間層以下は困窮化しているので、持てるはずがありません)という課題は、ずっと残り続けています。
この分のマイナスを計算しないで、臭いものに蓋をするかたちでGDP目標や新規産業に投入していても、多少便利にはなるでしょうが、永久に「最大多数の最大幸福」を目標にした「より良い社会」にはなりません。
経済に無知なリーダーは避けよう
私はこの手の話題に興味があり、卒業論文では「経済波及効果」を論題にしています。
自分の県だけ少子化解決しようとした知事もいらしゃったみたい(パワハラ問題で辞職)ですが、社会的費用の何たるかを知らない経済のド素人にしか思えません。
左翼は経済がなんたるかもまったく理解できないでしょう。